ショカン的空間

カエリみる タイサク …8

2016年6月13日 5時53分の記事
 
 

Forgotten People,Forgotten Diseases


都市部のNTDs (P178~190)

世界の総人口の約半数は都市部に住んでいる

レプトスピラ症とデング熱の伝播を引き起こす1つの要因は都市部の洪水

今後数十年間で都市化と気候変動が同時に進んだ場合 レプトスピラ症とデング熱の発症率が高くなると予想される -Gubler et al.,2001



レプトスピラ症〉

リオデジャネイロ,サルバドール,フォルタレザなど,ブラジルの主要都市には,中心地にファベーラと呼ばれる人口が密集したスラム街や貧民街がある.

19世紀の終わりにブラジル人兵士が反乱軍と戦った場所に多く見られた植物の名…ファベーラ

兵士たちは戦いから戻ったときにリオデジャネイロの丘陵を不法占拠して定住して そのように名付けた


レプトスピラ症は主にネズミとイヌから伝播する人獣共通感染症

レプトスピラ菌は螺旋状の整った形の細菌で ネズミやイヌの腎臓で長期間生き続ける
Bharti et al.,2003
McBride,2006

レプトスピラ菌はそれらの動物の腎臓の排泄に関わる細胞に定着しているため ファベーラに生息するネズミやイヌの尿には数百万ものレプトスピラ菌が含まれ

雨水が一定の期間溜まったままになると レプトスピラ菌を大量に含むことに

小さな切り傷や擦り傷から菌が侵入したり 眼 鼻 口の粘膜からも しばしば

僻地では家畜の尿に含まれる菌が水だけでなく土の中にも入り込む

アマゾン川流域ではコウモリ 齧歯(げっし)類 有袋類などの哺乳類からもレプトスピラ菌は見つかる

レプトスピラ症の状況がほとんどわかっていないのは 感染した患者の症状が他の感染症に似ており 目立った特徴があまりないため


レプトスピラ菌は非常に活発に動く…侵入後様々な組織に移動し拡散…ほとんどの患者に軽い症状が現れ 一部の患者には発熱 頭痛 吐き気 嘔吐が見られた後 皮膚に黄疸が現れる(ウイルス性肝炎に似た症状)

レプトスピラ症患者の約4分の1にはこうした症状の後,レプトスピラ菌が中枢神経系に侵入し,重い頭痛や眼の奥の痛みを特徴とする髄膜炎が起こる.

一部の患者は 黄疸 腎不全 肺出血(肺への出血)を特徴とするワイル病と呼ばれる重いレプトスピラ症に…心臓に症状が現れる場合も


ワイル病患者の5~15%が死に至る

ワイル病はイギリスからプリマス植民地へ航行した船に乗っていた齧歯類が原因で発生し,ネイティブアメリカンの人口が減る一因になったと言われている.なぜワイル病にならず軽い症状だけで済むのかはわかっていないが,レプトスピラ菌の菌種の違い,宿主であるヒトの体質などの違い,またはこの両方が原因ではないかと考えられる.


最近 複数のレプトスピラ菌種のゲノム配列が明らかになった
Scott and Coleman,2002
Brett-Major and Coldren,2012
Ko et al.,2009
Victriano et al.,2009


抗生物質を投与されなくても多くの患者が回復する…レプトスピラ症のエンデミックが起きている地域に兵士や旅行者が行く場合 ドキシサイクリンを一回以上投与しておくと予防効果が期待できるが それをファベーラで大規模に行うのは現実的ではなく 下水作業など 触れるリスクが高い場合は防護服が予防に役立つ

また サトウキビの若い芽の先端は鋭いため 収穫時の手の切り傷から侵入しやすい

ワクチンは開発可能だと考えられているが 簡単に使用できるようになるまでの公衆衛生対策は 十分な調査に裏付けられた保健システムを機能させること

しっかりと調査を行うためには,機能的な研究室をもち,微生物の培養や最新のPCR〔ポリメラーゼ連鎖反応.DNAやRNAの断片を大量に増幅する反応〕法を用いて,レプトスピラ症を微生物学的に診断する必要がある.有害生物(ネズミ)を駆除し,地域の水を塩素消毒することも,その地域からレプトスピラ症を排除するプログラムでは重要である.
-John,2005

どの対策を行う場合も,レプトスピラ症のエンデミックが起きている国々の保健担当省庁が確固たる政治的意思をもち,保健医療システムがしっかりと機能し,維持されていく必要がある.またこの人獣共通感染症の世界的な負荷を完全に把握するためには,レプトスピラ症の国際的なデータベースを一刻も早く作る必要がある.-Cachay and Vinetz,2005



デング熱(骨折熱)〉

水が溜まった排水溝 貯水池 水を貯めるあらゆる容器 廃棄され水が溜まったタイヤなどのある環境は 蚊の繁殖に適した場所

ハマダラカ属の蚊(リンパ系フィラリア症やマラリアを伝播する)や

ヤブカ属-中でもデング熱と黄熱を起こすフラビウイルスを伝播するネッタイシマカ は特にそのような環境を好む


南アメリカ大陸では1960年代に媒介蚊対策が集中的に行われた結果,都市部で発生していた黄熱とデング熱が減り始め,1960年代後半には南アメリカ大陸の熱帯地域からほぼ根絶された.しかし1970年代になってこれらの対策が行われなくなると,ヤブカ属の蚊が再び繁殖し始めた.1990年代半ばごろまでに,この媒介蚊の地理的分布図は30年前に作られた分布図とほぼ同じ状態になった.

ファベーラのデング熱: Heukelbach et al.,2001
南アメリカ大陸などでのデング熱の再興について: Gubler and Clark,1995

その状況は ツェツェバエ対策が中断したためにアンゴラ コンゴ民主共和国 スーダンでヒトアフリカトリパノソーマ症が再興した状況とあまり変わらない


しかし南アメリカ大陸の場合,紛争のために媒介蚊対策を中止せざるを得なくなったわけではなく,意図的に止めたのである.現在ブラジルでは数千名が毎年デング熱になり,そのほとんどが北東部熱帯地域のファベーラで発生していると推定されている.この地域のファベーラでは,約2~3か月続く雨の激しい時期の後,5月から6月にかけてエピデミックが起こる.この間に媒介蚊のヤブカ属の生活環が複数回繰り返され,地域全体にデング熱を伝播するほどに固体数が増える.世界保健機関(WHO)によると,2010年のアメリカ大陸のデング熱の発生報告は160万件を超えていた.
World Health Organization,2012a
Brady et al.,2012


熱帯地域都市部の貧困地域全体に広がっている…デング熱の有病率は不明だが 毎年5,000万人から1億人程度が感染し 約50万人が入院 入院患者の2.5%がデング熱と合併症のために死亡すると推定されていて 40億人がデング熱になるリスクさらされており

世界で最もよく見られるアルボウイルス感染症節足動物媒介性のウイルス感染症)と言える


この50年でデング熱アウトブレイクは30倍に増えたと推定されているが,このような地域では人口流入と同時に,温暖化によると考えられる洪水がその主な原因とされている.

キューバで1977~1978年に初めてデング熱アウトブレイクが起き,その後も1981年と1997年に起きている.このほか,ベネズエラでもデング熱アウトブレイクが起きている.

アメリカ大陸でのデング熱再興について:
Malavige et al.,2004
Tapia-Conyer et al.,2012
Bouri et al.,2012
Brunkard et al.,2007


ラテンアメリカ全体では30か国を超える国でデング熱アウトブレイクが起きたことが報告されている

急増した要因には 貧困と急激な都市化 下水設備の不足だけでなく おそらく気候変動や 蚊の対策などの公衆衛生対策を徹底して実施しようという政治的な意思の欠如も関係していると考えられる


ネッタイシマカはアメリカ南部のテキサス州ルイジアナ州,フロリダ州などでもよく見られるため,ヒューストンやニューオリンズなど,メキシコ湾沿岸地域の都市部にあるスラム街でアウトブレイクが起きても驚くにはあたらない.今のところ,テキサス州南部のメキシコとの国境付近とフロリダ州で,すでにデング熱が発生していることがわかっている.

テキサス州南部のアウトブレイクでは,ネッタイシマカに刺されてデング熱になる大きなリスク因子が貧困であることがわかっている.ラテンアメリカでのデング熱アウトブレイクが爆発的に増えている一方,アジアでもデング熱患者は多数発生し,特に東南アジア,インドとスリランカ,中国南部(特に海南省),南太平洋の島々(特にフィジー)に多い.デング熱はアフリカのサハラ以南の海岸沿いの地域でもよく見られる.


デング熱を起こすのはフラビウイルス科のウイルス

フラビウイルス科のウイルスには黄熱,ウエストナイル熱,日本脳炎など熱帯病の病原体もある.フラビウイルスの特徴は,ヒトのゲノムが2本鎖のDNAであるのに対し,1本鎖のRNAでできたゲノムをもつことである.またデングウイルスの抗原が4種類ある(血清型と呼ばれる)ことも大きな特徴である.

血清型はデングウイルスの感染による重篤な症状と関係している

デングウイルスはヤブカ属の蚊の唾液腺で増殖する

ネッタイシマカは一般的に昼間にヒトを刺す…侵入するとリンパ節に移動し さらに血液中に入る


乳幼児や小さい子どもが初めて感染したてきには他の病気と区別するのが難しい.一方,ある程度の年齢以上の子どもと大人には古典的デング熱の症状が現れることが多い.古典的デング熱は骨折熱とも呼ばれ,高熱が出ると同時に,頭痛,激しい筋肉痛,関節痛,骨の痛みが生じる.顔,首,胸の潮紅〔一過性の紅斑〕もよく見られる.

最も重い症状を示すデング出血熱(DHF)は デング熱患者の約0.5%に見られる(年間で約50万人)

デング出血熱,数年以内に2種類の血清型のデングウイルスに感染した子ども(16歳未満)に見られる.
-Nimmannitya,2002

スコット・ホルステッドらは宿主免疫反応が何らかの形で関与しているという仮説を立てている(以前はロックフェラー財団に在籍していたスコット・ホルステッドは小児デングワクチンイニシアティブの責任者/小児デング出血熱に関する連続感染の仮説:Halstead,1981)

デング出血熱に見られる臨床症状は、腸や歯茎,膣からの出血という出血性の症状と,出血と同時に起こる数日間の高熱と,循環血液中の血小板の減少である.デング出血熱を起こした患者の一部はさらに悪化して肝不全やデングショック症候群を起こす.

デングショック症候群は循環虚脱や激しいショック症状を起こす状態…死亡率50% 年間数千人と推定される


アジアではデング出血熱のアウトブレイクが増加している…1954年にフィリピンのマニラで重症型のものとして初めてエピデミックが報告された〔1915年に台湾で,1942~1944年に西日本で流行.2014年夏,日本で約70年ぶりに報告された〕

その後は1980年以降にエピデミックが急激に増加し,インドネシアベトナムスリランカ海南省(中国),フィジーで起きている.これらの地域では全般にデング熱の伝播率が高く,数年おきに少なくとも2種類の血清型のデングウイルスが蔓延している.

アメリカ大陸では最近,デング出血熱のアウトブレイクが20か国以上で起きている.1981年にキューバで起きたデング出血熱のエピデミックの病原体は東南アジアから持ち込まれた2型のデングウイルスで,1977に1型のデングウイルスで起きたエピデミックの4年後に起きている.
~P186


WHOのDenggueNetの活動: who.int/csr/disease/dengue
デングワクチンの開発に関する最新情報: Heinz and Stiasny,2012


シンガポールの国家環境庁は500人の調査員を雇用し 14日以内に半径150m範囲内で2人のデング熱患者が見つかった地域の戸別訪問調査を実施
(排水溝や鉢植え 木の葉の間も調べる…20世紀初頭パナマ運河の建設時 昆虫媒介性感染症を減らすのに一定の効果が見られた方法)

シンガポールの取り組み: Arnold,2007
シンガポールでのコスト: Carrasco et al.,2011


マラリアリンパ系フィラリア症対策は 殺虫剤処理をした蚊帳の使用で 夜間にヒトを刺すハマダラカ属の蚊による伝播を止めること(昼間のネッタイシマカ属の蚊には有効ではない)

ベトナム国内などデング熱が蔓延している地域のなかには カイアシ類を使う生物学的な方法や薬剤を使った対策(Kay et al.,2002)が一定の成果を上げているところもある



狂犬病〉は カエリみる タイサク …9 で


『顧みられない熱帯病』2015



Peter J. Hotez, MD, PhD. 著
ベイラー医科大学テキサス州ヒューストン)/国立熱帯医学校 創設学長/小児医学および分子ウィルス学・微生物学 教授/テキサス子ども病院/熱帯小児医学寄付基金 教授/ワクチン開発センター代表/セービンワクチン研究所 所長/ライス大学 ベイカー研究所 病気と貧困特別研究員/PLOS Neglected Tropical Diseases 創刊編集長

監訳:北潔-東京大学大学院医学系研究科 国際保健学専攻 教授/長崎大学大学院 熱帯医学・グローバルヘルス研究科長

訳:BT Slingsby-グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)CEO/鹿角契-グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)投資戦略・開発事業担当部長




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世界大百科事典内の骨折熱の言及 -コトバンク


デング熱】より

…ウイルスは長さ15~33nmのフラビウイルスで,潜伏期5~8日の後,突然の高熱,悪寒,激しい頭痛,背や四肢の疼痛で発症する。とくに筋痛や関節痛がひどいために骨折熱breakbone feverとか,関節痛によって〈気どった〉歩き方になるため〈だて者熱dandy fever〉などともいわれる。発熱は2~3日続き,いったん下熱した後,2日ほどして再び発熱する2相型を示し,数日後に分利下熱(大量の発汗を伴って急速に下熱すること)するが,病型によっては2相型を示さないものもある。…

※「骨折熱」について言及している用語解説の一部