ゆらぎ もどり (ぶつかり きしみ くつがえることも)

心礎 など ありました

  宙(輪)に根ざす柱 2 / 水のよう・・ 2015.5.7  から 転載    

 

※単位「?」のところは なにがよろしいのでしょう? ㎜  ㎝  m・・

 

「心柱は相輪を支持しているだけで 五重塔そのものの荷重を支えることにはまったく貢献していない」

『古代日本の超技術』2012

 

法隆寺五重塔の心柱の長さは約32m  約16mの八角形の2本の部材がつながれている

(使われたのは 樹齢2000年以上 根元の直径2.5m以上の檜真ん中から縦に4つ割りにして 断面が八角形になるように削る)


ずれたり曲がったりしないよう また つなぎ目が完全に合うように継手仕口が作られ

結合をより完全にし 心柱を補強するため 四方から添え木が当てられる

芯を含んだ柱はひび割れしたり 曲がったり 全体を歪めることがあるため 大木を縦に4つ割りにして使う

(心柱に限らず 4つ割りにせずに芯を含んだままの大きな柱は法隆寺には一本も存在しない

法隆寺を支えた木』

 

「現在の法隆寺の心柱は基壇上の石組で支えられているが、当初はそこから約2.7m下の地中に据えられた心礎(礎石)の上に、掘立柱式に立てられていた。大正15(1926)年、腐朽した心柱の土中部分の下の心礎上面の舎利孔が発見され、そこに舎利容器一具が安置されていることが判明した。ともあれ、心柱の下部が空洞化していた、という事実は、心柱が五重塔の荷重を支えていないことの証左である」


法隆寺の心柱は地中の心礎の上に立つ掘立柱だったが その後に建てられた薬師寺東塔 西塔 醍醐寺東寺五重塔の心柱は いずれも地上の礎石の上に立てられたもの)

(平安期から鎌倉期にかけては 塔の初重の梁の上に立てられる構法の木塔が多くなり 平安時代に建てられた京都・一乗寺 浄瑠璃寺の三重塔 鎌倉時代初期の京都・海住山寺五重塔などがその構法)

 

江戸時代後期になると 心柱を上層の肘木や土居桁(梁)から吊り下げる

“宙吊り心柱”の構法が出現する

 

青森・青龍寺五重塔の心柱の底部は
礎石から30?ほど浮いていて

心柱を吊っているのは タンバックルで連結された2本の亜鉛メッキSS400綱棒(直径25?)


(ほかに上野・寛永寺 日光東照宮 香川・善通寺 山形・善宝寺の五重塔などが「宙吊り心柱」構法を採用している)

日光東照宮五重塔の初層が 東京スカイツリーの開業に合わせて 初公開された-2012.5.22~2013.3.31)

『古代日本の超技術』


   ◆


(同書)

「うだつの上がらない十兵衛という大工が、紆余曲折の末に谷中・感応寺(架空の名)の塔を建てる話」より


五重塔』1891(明治24)年-幸田露伴(24歳のとき)

「五重巍然(ぎぜん)と聳えしさま、金剛力士が魔軍を睥睨(にら)んで十六丈の姿を現じ坤軸動(こんぢくゆる)がす足ぶみして巌上(いはほ)に突立ちたるごとく、天晴(あっぱれ)立派に建つたる哉、あら快よき細工振りかな、希有ぢや未曾有ぢや」

(というくらい立派)

(落成式間近のある日とてつもない大嵐が江戸を襲う)

五重塔は揉まれ揉まれて九輪は動(ゆら)ぎ、頂上の宝珠は空に得読めぬ字を書き、岩をも転ばすべき風の突掛け来り、楯をも貫くべき雨の打付(ぶつか)り来る度たわむ姿、復(もど)る姿(さま)、また撓む姿、軋る音、今にも傾覆(くつがへ)らんず様子」


「塔は大丈夫倒れませぬ、何の此程の暴風雨(あらし)で倒れたり折れたりするやうな脆いものではござりませねば」-十兵衛(自信たっぷり)


「谷中・感応寺五重塔」のモデルになったのは

「寛政3(1791)年に建立され 昭和32(1957)年に放火心中のために焼失した東京・谷中の天王寺五重塔」-『早稲田文学』1950年3月号

この谷中・天王寺五重塔の心柱が「宙吊り心柱」だった


   ◆


(同『古代日本の超技術』より)

地震や大風への対応のしかた)

(乾燥する板の積み上げをするときに風で倒されたり崩れたりしないように…という設定の中で語られている)

(このあたりに交えられた百年位前のエピソードには不自然…「不透明」な感じをうける-記入者)


「錘(石)を縄でくくり、それを横棒に吊るして“井桁の塔”上にかけると、相当の風が吹いても“塔”が倒れない」

「宙吊りの錘が、風に対してのみならず、地震の揺れに対しても大きな効果、つまり「耐風性」のみならず「耐震性」にも大きく貢献する」

“宙吊り心柱”の構法で青森・青龍寺五重塔を建てた 大室勝四郎棟梁-「地震や大風に強い五重塔を造るには、心柱を宙吊りにするのが一番いいんです」

「心柱を宙吊りにすれば、塔ができあがった後、何年かして部材が乾燥したり変形したりしても、塔が壊されないからいいんです」-大室棟梁

収縮や変形は木材の軸方向では小さいが
繊維に直角の方向では大きい

つまり 「木造の五重塔は建てられた後 完全に落ち着くまでのあいだに必ず縮み 変形する」


心柱が宙吊りになっていれば 下部と礎石の間に隙間があるので問題ない

心柱が下降し 隙間が狭められたとしても下部を切り詰めるのは「簡単」

 

薬師寺西塔は1980年 約450年ぶりに再建された)

塔の高さは東寺より33?高く 屋根の反りも東塔に比べかなり扁平

「およそ200年後に西塔は東塔と同じ高さ 同じ形になる」-西岡常一棟梁

(新しく建てられた西塔の木材は およそ200年にわたって変形し続ける)


ところが 繊維方向に伸び 塔の荷重を支えていない心柱の収縮・変形は 非常に小さい

心柱が固定されていると 五重屋根との間には大きな隙間ができて 激しい雨漏りを招き ひいては木材を腐らせる原因になる

それを防ぐには 心柱を持ち上げて下部を切り詰めるほかはない

「それは大変な作業である」

(最初から心柱と五重屋根を接触させなければよいが そうすると最初から雨漏りが起こることになる)

 

(「耐震性 耐風性」の話に戻る)

「一種の振り子作用」で説明できる(が 現存する五重塔の中で 宙吊り心柱をもつものは むしろ例外的)

 

「心柱は 首振りを含め 一般に層変位の集中を抑制する」石田修三-建築学者

「心柱の閂作用(効果)」が多重塔の高度の耐震性能を決定づける という「心柱閂説」を提唱されている

五重塔の心柱はちょうど「観音開きの扉を固定する閂」のような働きをするので「心柱の閂作用(効果)」とよんでおられる)

石田氏は振動実験模型を作り 三つの型の心柱が五重塔の耐震性に与える影響について調べた

「圧倒的多数の五重塔に採用されている 心礎の上に立てられた貫通型心柱が耐震性において もっとも有効であることが科学的に示された」


「倒壊に要する地動速度」において

もっとも優れているのが貫通型(心礎の上に立つ)心柱」

貫通型よりは劣るものの 梁上型(初重天井の上に立つ)心柱

懸垂型(宙吊り型)心柱は 心柱なしの場合に比べ 二倍以上の耐震性を示した


スカイツリーの心柱は貫通型)

 


通し柱のない構造-建物全体はつながっていない「キャップ構造」

地震による横振動が上層に伝わりにくい


法隆寺の金堂を調査しているときに地震がありまして、揺れましてん。塔、どないなるかとすぐ外へとんで出て見たんですわ。そしてじっと見ていたら、反り機械ではかったわけやないからはっきりとはいえんけれども、初重がこう右に傾けば、二重が左に傾く。二重が左に傾けば、三重は右に傾く。たがいちがい、たがいちがいに波を打つようになった。各重がたがいに、反対に反対に動きよる。ということは中心は動いとらんわけでしょう。側だけが動いている。ああいうので塔が地震には強いのじゃないかと思います。そしてあんまり大きなのが来たときには、心柱がこんどは止める役をしよるんです。とにかくビルでもこのごろは軟構造ということがいわれますけれども、もう千三百年前にちゃんと塔は、いまでいう軟構造にできているということですわ。各重ごとにうまいこと動くようにできてますわ」西岡常一 棟梁

 

奈良国立文化財研究所などによる解析調査結果 -1996年10月
法隆寺五重塔の基壇と各重の梁の上などに計16個の微動計を設置し 1000分の1~100分の1?の「常時微動」を測定し 揺れの方向や振動数などを調べた)

塔本体は0.9ヘルツで水平に揺れながら
同時に2.5ヘルツの振動数で弓形にしなる動き

基壇の振動数は2~5ヘルツで
基壇と塔本体の振動数に最大5倍以上の差がある

つまり「振動数の違いによって共振することなく 揺れる力を緩和し 分散させているのである」

 

五重塔の塔が地震や大風に強いのは)
心柱の「振り子作用」や「閂作用」 各重の「キャップ構造」によるものと考えて「間違いないだろう」


   ◆


1923(大正12)年の関東大震災の後
日本の建築・土木学界では 耐震性の建築物は「剛構造」であるべきか 「柔構造」であるべきかの論争が続いた

剛構造は鉄筋コンクリート造りで 骨組みも壁も強くして地震の揺れに対抗しようという考え(の建物)

 

「ビルの本番」アメリカでは エンパイアステートビルをはじめ 剛構造のものがほとんど

「しかし アメリカでは地震が少ない!」

剛構造は 重くなる 強くしようとすればするほど重くなり
さらに… というジレンマが生じる

 

柳に雪折れなし
地震から見れば「暖簾に腕押し」「糠に釘」


柔構造は 建物に十分にしなやかな変形能力を与え 揺れの固有周期を長くし 作用する地震力を全体として小さくしようとする構造

 

低中層ビルは剛構造も有効
超高層なら「どうしても」柔構造

「柔構造」の思想が 具体的には 数々の免震・制振構造として 現代の超高層ビルに取り入れられている

免震装置としては 硬質ゴムシートと薄い鉄板を交互に何層にも重ねたものがあり

建物の大きな鉛直荷重を支え 水平方向には「柔らかい剛性」をもつ


(さまざまな免震・制振装置など 略)

『古代日本の超技術』

 

(木造建造物は解体・修理が可能)

(鉄筋コンクリートの建造物は建ててから破壊されるまで)
『古代日本の超技術』


   ◆


「柔軟性」「接合部の隙間や変形」「吸収性」


「柔構造の思想」


すべての要素や前提などの吟味 など込みで

活かされてゆくことでしょう

 

 

(  宙(輪)に根ざす柱 2 / 水のよう・・ 2015.5.7)